検証 医療ツーリズム元年(3)「言葉をつなぐ」(医療介護CBニュース)

■医療通訳士養成、難易度高い講義
 「日本語の『上皮小体』は、そのまま読むとシャンピーシャオティですが、通訳としては間違っています。中国語で上皮小体は『甲状傍腺(ジャージョウパンシェン)』、これが正解です」。

 東京都千代田区の語学スクールで行われている中国語の医療通訳養成講座の一コマ。講師が受講生に示すのは、人体の構造をイラストで図解した日本語のテキストだ。
 受講生は、臓器や各器官の名称を日本語と中国語の両方で確認しながら、それぞれの仕組みや他の臓器とのかかわり、病気の種類や治療法に至るまでを学ぶ。中国語が母語の受講生でも、講義に付いて行くのに必死だ。
 講師は現地の医師免許を取得している中国人で、日本の大学でも研究歴が20年以上に及ぶ。このため、日本語での解説も実に流ちょうだ。
 受講生10人の年齢層は30-50歳代で、8人が中国人。医療通訳を目指す動機もさまざまだ。観光通訳として長年活躍してきたが、病院での通訳を頼まれたものの専門知識が無く、言葉の解釈をめぐりトラブルになりかけた苦い経験を持つ人もいるという。

 講座を開いた東京通訳アカデミーの岡村寛三郎学院長は、医療ツーリズムが世界規模で急激に広がる中、近い将来、日本国内でも医療通訳の需要が高まるとにらんでいる。昨年9月に開講して1期生を募ると、中国語のクラスには12人が集まった。
 医療通訳に必要な知識を体系立てて教えるノウハウや前例がなく、すべてが手探りの状態だ。岡村氏は「命にかかわわる医療現場が活躍のフィールド。知識が足りないよりは必要以上の知識を身に付けてもらうため、難易度は高くせざるを得なかった」と話す。

 現在の2期生は、今年3月からの4か月間で必要な知識を習得し、7月にはアカデミー独自の技能検定試験を受ける。これまでに試験に合格した1期生たちは、国内に仕事が少ないため、中国の邦人系病院などで医療通訳として働いているという。しかし、今後は日本国内でも、医療機関や地方自治体、旅行会社などで医療通訳が求められる可能性が高い。
 岡村氏は「受け入れからアフターケアまで、言葉をつなぐ役割はすべての段階で重要。医療通訳の養成が、国内の医療ツーリズムの成否を分けるといっても過言ではない」と意気込みを見せる。

■経産省、課題解決策を検証
 医療ツーリズムを軌道に乗せようと、官民が共に動きを活発化させている。
 経済産業省は4月、日本による医療ツーリズムを発展させる上での課題を明確しようと昨年度に実施した「国際メディカルツーリズム調査事業」の報告書を公表した。医療ツーリズムへのニーズが高く、地理的に日本に近いロシアと中国を「有望な市場」となる可能性が高いとする内容だ。

 報告書では、外国人患者の受け入れ拡大に向けた課題として、▽医療ツーリズムを行う医療機関の裾野拡大▽海外の保険会社との連携▽帰国した患者からの問い合わせ対応などのアフターフォローの充実▽日本の医療の認知度向上-などを挙げている。

 同省では今年度、これらの課題をどう解消していくか、検討を本格化させる。既に、外国人を受け入れる医療機関が整備すべき体制などについて、厚生労働省との話し合いを始めたという。
 同省の担当者は「国として応援できるところはしていきたい」と話している。

 全国の民間病院などが加盟する全日本病院協会は昨年度、「国際メディカルツーリズム事業委員会」を立ち上げた。今後、中国人やロシア人をターゲットとした医療ツーリズムの実施施設向けに、認証制度の検討を進め、年度内に方向性を出すという。
 医療ツーリズムに取り組む施設が取得する認証としては、JCI(Joint Commission International)が知られているが、全日病委員会の神野正博委員長は「中国人やロシア人をターゲットにするなら英語でパンフレットを書く必要はない。中国人が納得するJCI以外の認証システムが必要だ」と話す。

 旅行業大手のJTBは、医療ツーリズムを専門に扱う「ジャパンメディカル&ヘルスツーリズムセンター」を4月に設置し、海外の患者からの受診予約や医療費の精算管理、通訳、送迎、宿泊手配などを代行する一体的なサービスの提供を始めた。
 外国人患者の売れ入れに当たっては、医療サービスを提供したものの、料金を回収できなかったり、受け入れを仲介した業者が逃げたりするケースもあるという。同社の担当者は「患者さんの受け入れから料金の決済まで、医療機関をサポートしたい」と話している。

 国の後押しを背景に、関係する業界の動きが活発化している。ある関係者は「今年は医療国際化元年」と表現する。アクセンチュアの杉村知哉氏は「いろいろな課題があるが、日本の医療ツーリズムは始まったばかり。日本の医療が世界に貢献できるのは喜ばしい」と期待している。


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